Japan can support IP

イノベーションの先進国である日本は、知的所有権擁護国として世界の発展に寄与することが可能

日本は現在、世界保健機関(WHO)の執行理事会(世界の健康に関するWHOの活動方針を決める重要な意思決定機関)の理事国として3年間の任期途中にあります。日本の代表団は執行理事会理事国33カ国とともに、2019年1月に開催される第144回執行理事会に出席し、ポリオ撲滅から気候変動による健康への影響に至る広範囲な議題について討論を行う予定です。

なかでも、執行理事会で最も重要な議題はおそらく、WHOが提案する「医薬品アクセスに関するロードマップ」(Roadmap on Access to Medicines)です。この「ロードマップ」は、WHOが今後5年間に世界の医薬品に関して取り組む優先事項を規定するものです。日本は執行理事会の理事国として、WHOがこの問題に取り組む方法についての議論を取りまとめる上で助力することになります。

残念ながら、WHO事務局が作成した「ロードマップ」には、加盟国が解決する必要のある深刻な問題が含まれています。例えば、この「ロードマップ」ではWHOのさらなる役割として、同機関が知的所有権について各国に勧告することを提案しており、具体的には特許所有者の同意なしに特許医薬品を製造できるようにする「特許強制実施権」の行使(「TRIPS協定(知的所有権の貿易的側面に関する協定)の柔軟性」とも呼ばれます)を提案しています。この施策は不必要であり、世界のイノベーションに重大な悪影響を及ぼすと考えられ、患者の目下の医薬品入手(医薬品アクセス)を困難にし、将来の新しい治療法や治療薬への投資を抑制することになります。

WHOでは特許が医薬品へのアクセスに対する障壁であると見なす傾向があり、同ロードマップはそれを反映したものです。しかし、この見方は事実誤認であり、研究によると知的所有権と医薬品アクセスの間に相関関係は見られません。WHOが指定している「必須医薬品」のほぼすべては、既に特許切れであるにもかかわらず、医療制度が脆弱であったり資金不足であったりするため、何百万人もの患者が依然として入手できずにいます。知的所有権の強化は実際に、創薬研究を活発にし、革新的な医薬品の普及を容易にし、医薬品へのアクセスを促進させることができます。

WHOはまた、前述の勧告を実施するのにふさわしい機関ではなく、知的所有権保護の複雑な技術的、経済的、貿易的な影響について各国に助言できる専門家を欠いています。多くの国は既に、医薬品へのアクセスを改善する可能性の低い筋違いの取り組みのためにWHOが限りあるリソースを費やすことについて懸念を表明しています。 

WHO執行理事会の理事国は、創薬研究の活発化において知的所有権が果たす重要な役割について一歩踏み出し、はっきりと説明する必要があります。日本はこれまでに、製薬業界でイノベーションを推し進め、世界の主要国に働きかけることで、患者と医薬品を隔てる障壁を取り除いてきました。

例えば日本の特許取得数を見てみると、日本は2017年に特許協力条約に基づき、バイオテクノロジー関連の特許1,372件を申請しました。これは10年間でほぼ21%の増加であり、米国に次ぐ世界第2位の件数です。また直近の統計によると、製薬の研究開発(R&D)に投資された額は、年間130億ドル以上に上ります。こうした顕著な数字が一因となり、日本は世界知的所有権機関(WIPO)の2018年度版グローバル・イノベーション・インデックスにおいて、質の高いイノベーションを生み出す最上位国となっています。

最近の国際会議における日本の声明では、世界のイノベーションを後押しする専門知識、知的所有権、起業家精神の促進と保護において日本が著しい進展を遂げていることを示しています。日本は、患者と医薬品の間に存在する多くの障壁を取り払うために包括的な解決策が必要であることを理解しています。

  • 2018年世界保健総会において、日本の代表団は以下の声明を出しています。「各国の医薬品およびワクチンへのアクセスを改善するには、知的所有権、薬価のみならず、国の保健行政、医療従事者の数と質、医療施設へのアクセス、医薬品とワクチンの供給体制などのさまざまな要因を考慮する包括的なアプローチが必要である」
  • 日本の代表団はまた、2018年世界保健総会での同声明において、全世界で健康を増進させるために研究開発が重要であることを強調し、次のように述べています。「保健制度の強化と国民皆保険の実現には研究開発の進展が重要な要素であることを確信している」
  • 日本は昨夏に「医薬品アクセスに関するロードマップ」草案について述べた書面によるコメントにおいて、WHOが「TRIPS協定の柔軟性」を促進することに対して警鐘を鳴らしており、これはWHOが負うべき役割でないと指摘し、「TRIPSはWTOの枠組みの下にあり、WHOはTRIPS規定について『技術サポート』を提供する義務を負うべきではないように思われる」と述べています。

これらの声明は、イノベーションを推進して世界各地の患者が現在および将来の治療法にアクセスできるようにするという日本の強いコミットメントの現れです。

WHO執行理事会が医薬品へのアクセスを改善する方法を検討するなかで、知的所有権の有効性を弱めれば医薬品へのアクセスが改善されるという考えに反論する機会が日本にはあります。世界の健康を先導する一国であり、主要な開発援助資金提供国でもある日本は、医薬品アクセスへ真の障壁となっている脆弱で資金に乏しい医療制度、貧弱なインフラ、税・関税などへの対策に注力できるようにWHOを助けることができます。特に日本は、このロードマップについて懸念を示すために、また世界の知的所有権の有効性を弱めようとするWHOの活動が拡大しないようにするために、執行理事会で明確に発言すべきです。

行動を起こすのは今です。世界中の患者は、日本とその他の執行理事会理事国が、世界の健康を改善するために今ある複雑な障壁を積極的かつ包括的な解決策によって取り除くことを期待しています。

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